良いデザインは細部まで徹底している——ラムス第8原則
ディーター・ラムスの「良いデザインの10原則」第8条——「良いデザインは細部まで徹底している(Gutes Design ist konsequent bis ins letzte Detail)」。Vitsœの公式テキストはこう続きます。
「何も恣意的であったり、偶然に任されてはならない。デザインプロセスにおける配慮と精度は、ユーザーへの敬意を示す(Care and accuracy in the design process show respect towards the user)」。
ここに第8条の核心があります。細部へのこだわりは審美的な完璧主義ではなく、ユーザーへの倫理的態度です。
ET66電卓——細部が語る設計思想
1987年のBraun ET66電卓は、第8条の教科書的実例です。ディートリッヒ・ルブスとラムスの共同設計によるこの電卓は、V&A(ロンドン)の永久コレクションに収められています。
全ボタンの配色は無彩色の黒・グレー系で統一されていますが、「=」ボタンだけが黄色、電源が緑、消去が赤でハイライトされています。ボタンの形状はわずかに凸型(convex)で、触感で位置を判別できる。フォントはHelveticaの中立性を利用し、数字・四則・メモリ機能を色と配置の階層で区別しています。
「何も偶然に任せない」——この電卓のどの要素を取り出しても、そこに理由があります。アップルのiOS計算機アプリが長年この配色を参照していたのは、こうした細部の設計思想が時代を超えて機能するからです。
見えない部分にこそ、敬意が宿る
スティーブ・ジョブズは、父親から「見えない裏側まで美しく作る」姿勢を学んだと語られることがあります。フェンスを建てるとき、父が「裏側も表と同じくらい美しく作れ」と言った。「誰も見ないのに」と問うジョブズに、「お前が知っている」と答えたと。ジョブズはNeXTコンピューターでも、修理業者しか見ないと思われる内部ネジにまで高価なメッキを施し、ケースの内側にも塗装を施しました。
これはラムスの第8条と同じ地平にある精神です。ただしジョブズとラムスの間には決定的な差異もあります——ジョブズは毎年マイナーチェンジのiPhoneを発売し続けました。「細部まで徹底」しながら「計画的陳腐化」を同時に実践した。ラムスの第7条「長持ちする」との矛盾は、ジョブズとラムスが分岐した地点を示しています。
日本の「ものづくり」との共鳴
ラムスは日本建築から強い影響を受けていました。「床・壁・天井が明確かつ精密に構成され、素材と構造が慎重に組み合わされている伝統的な日本建築は、ヨーロッパ的な豪奢や派手な形式主義よりもはるかに洗練されている」と語っています。
日本の職人的倫理——見えない部分も手を抜かない——とラムスの「何も偶然に任せない」は、異なる文化的文脈から同じ地点に到達しています。ただし日本の侘び寂びが「不完全性の中の完全性」を美とするのに対し、ラムスの第8条は論理的一貫性(konsequent)を徹底する点で方向性が異なります。
ZACKの細部——ヘアライン方向から溶接部まで
「細部まで徹底している」かどうかは、バスルームアクセサリーでは意外に分かりやすい形で現れます。ヘアライン仕上げの研磨方向が一貫していなければ、光の反射が乱れて全体の統一感が崩れます。マットブラック仕上げの製品で取り付けビスだけが銀色のまま出ていれば、「偶然に任せた部分」として目に入ります。タオルバーの接合部の溶接処理、LED付きミラーの背面配線の取り回し——いずれも使い始めてから気づく、しかし気づいてしまえば常に目に入る細部です。
ZACKが「ZACK's designs show that even the smallest details make a big difference(最も小さな細部でさえ、大きな違いを生む)」を制作哲学として掲げるとき、それはラムスの言う「ユーザーへの敬意」と同じ精神を向いています。次回は第9条「良いデザインは環境に配慮している」を読み解きます。
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この記事は ドイツデザインの系譜|機能と美が出会った100年の歴史 アーカイブの一部です。
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