良いものを長く使うということ。
サステナブル、持続可能性、脱炭素、エシカル消費。
ここ数年で、こうした言葉をずいぶん耳にするようになりました。
環境に配慮すること、資源を無駄にしないこと、使い捨てを減らすこと。
そうした意識が社会全体に広がってきたことは、たしかだと思います。
では、実際の生活の中ではどうでしょうか。
買い物をするとき。
家具や日用品を選ぶとき。
何かが壊れたとき。
私たちは本当に、ものとの付き合い方を変えられているのでしょうか。
安いから、とりあえず買う。
壊れたら、修理するより買い替える。
少し古くなったら、まだ使えるけれど新しいものに入れ替える。
もちろん、それが必要な場面もあります。
すべてのものを無理に直して使うことが、いつも正しいわけではありません。
修理するより買い替えた方が安全な場合もあれば、
コストの面で現実的ではない場合もあります。
ただ、気がつけばそうした買い方や捨て方が、
私たちの日常にもずいぶん入り込んでいるように思います。
サステナブルという言葉が広まった一方で、
日々の生活の中にある「もの」との距離感は、本当に変わったのでしょうか。
少し前まで、ものを長く使うことは、もっと自然なことでした。
やかんの底が焦げつけば、磨いて落とす。
包丁が切れなくなれば、砥石で研ぐ。
家具に傷がつけば、それを隠すのではなく、使ってきた時間の跡として受け止める。
車も、家電も、道具も、壊れたからすぐに終わりではなく、
直せるものは直しながら使っていた。
それは、遠い昔の話ではありません。
私たちが子どもの頃にも、まだ普通にあった感覚です。
日本には、ものを大切に扱う文化があった、とよく言われます。
それは単なる美徳の話ではなく、実際の暮らしの中にあった習慣でした。
長く使った道具には、愛着が生まれます。
手に馴染んだもの、いつも同じ場所にあるもの、何度も手入れして使ってきたもの。
そうしたものは、単なる「商品」ではなくなっていきます。
使う人の時間を少しずつ吸い込み、暮らしの一部になっていく。
時には相棒のように、時には家族の記憶を宿すもののように、
ものと人とのあいだに関係が生まれていく。
けれど今は、その関係が生まれる前に、
ものが入れ替わってしまうことも少なくありません。
修理という選択肢は、以前よりも身近ではなくなりました。
部品を直すのではなく、ユニットごと交換する。
長く使うより、新しく買い替える方が早い。
メーカーも販売店も、修理より買い替えを勧めることがあります。
それは、現代の製品や流通の仕組みとして、ある意味では合理的です。
安く、早く、便利に手に入ることは、私たちの生活を確かに豊かにしてきました。
でも、それだけで本当にいいのでしょうか。
環境にやさしい素材を使うこと。リサイクルできること。
省エネであること。そうした要素はもちろん大切です。
けれど、どれほど環境に配慮された製品であっても、
短い期間で買い替え続けるなら、それだけで十分とは言えないはずです。
本当に持続可能なものとの付き合い方とは、良いものをひとつ選び、
手入れをしながら、長く使い続けることではないか。
そんなふうに思うのです。
このシリーズでは、ものを大切にし、長く使ってきた習慣や文化を取り上げていきます。
故人の持ち物を受け継ぐ「形見分け」。
使い続けた道具に感謝を込める「道具供養」。
子どもの成長を刻んだ「柱の傷」。
直しながら乗り続ける車。
手入れされ、何年も使われてきた生活道具。
どれも特別な話ではありません。
どれも、そんな昔の話ではありません。
もちろん、昔に戻ればいいという話ではありません。
現代には現代の便利さがあり、合理性があります。
安く買えるもの、すぐに手に入るもの、軽くて扱いやすいものにも、
それぞれの良さがあります。
ただ、その便利さの中で、私たちは何かを少し忘れてきたのかもしれません。
ものを選び、手入れし、直しながら使い、傷や変化を時間の跡として受け止める。
そして、ひとつのものと長く付き合うこと。
良いものを長く使うということは、単に節約のためでも、懐古趣味でもありません。
それは、ものを使い捨てにしないというだけでなく、
自分の暮らしの時間を、使い捨てにしないということでもあります。
良いものを選び、手入れをしながら長く使う。
その当たり前のようで、少し忘れられつつあるものとの付き合い方を、
もう一度考えてみたいと思います。
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